儚さは白

白は始まりの色。

森見登美彦作品の舞台を巡る(京都やっぴ〜編)

念のため説明させていただきますが、「やっぴ〜」とは、「やったー」と「ハッピー」の状態を同時に表す造語です。



京都も今日で見納めとなりました。京都だけに。

朝、二晩を過ごしたホテルから外へ出ると、青空が見えました。初日は雨に、二日目は雪に泣いた私が、夜通し「なむなむ」とお天道さまに唱え続けたかいがあります。
目標に掲げていたひよこちゃんショップへの訪店は旅のはじめに露と消えましたが、電気ブランを口にする楽しみを胸にして、京都駅で今日も市バスの一日乗車券を購入しました。京都だけに。

満員のバスに揺られること三十分強、本日最初の目的地である金閣寺に到着します。思えば、今日は日曜日でした。年末にもかかわらず、多くの観光客で境内は溢れかえっていました。私は人の多い場所が苦手なので、足踏みすることなくするりするりと出口を目指しました。

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『夜は短し歩けよ乙女』にてナカメ作戦が実行された銀閣寺は、『有頂天家族』で一匹の狸の名として登場します。弟の銀閣へは足を運んだのに、兄の金角に行かぬともなれば、意味不明な四字熟語を死ぬまで耳元で囁き続けられるかもしれません。寺の屋根にはうっすらと雪も積もっており、それはそれは見事でありました。

次に私は北野天満宮へ行くこととしました。牛の頭を撫でて、賢くなるためです。「なむなむ」というのは応用範囲の広い便利で有り難いお言葉でして、お参りでは大変重宝いたします。なむなむ。

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北野天満宮金閣寺ほどではないにしろ、なかなかに賑わっていました。静寂に包まれたいと考えた私は、進々堂で一服することを思いつきました。『夜は短し〜』で黒髪の乙女が先輩とおデートをするカッフェです。

しかし、丁度お昼時でしたので先に昼食を取ることにし、閑散としたお好み焼き店で名物のお好み焼きを胃に収めたわけであります。そののち、京大農学部前で下車した私は進々堂とは真逆の方角に朱色の鳥居を発見しました。

それは、先日に雨の中参拝した吉田神社へと続く道の入口だったのです。静寂マニアの私は東へ歩を進め、その鳥居をくぐりました。鳥居の先には階段が続いていて、なにやら登山の気配が漂います。

旅も三日目。地面の硬い京都の街をひたすらに歩き通してきた私の脚の動きは鈍く、それでもペシンと腿に鞭を打ちながらずんずんずんずんと登りました。

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山は静かで人も少なく、ベリーグッドな時間を過ごすことができました。私は東三条でがまぐちを物色しにいく予定がありましたので、進々堂での休息は諦め、すぐさまバスに乗り込みました。

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がまぐち店(まつひろ商店)の店員さんはあざとく、「あめちゃんどうぞ」と言ってあめ玉を勧めてくれました。私の目は完全に泳いでいたことでしょう。満足のいく買い物ができたので、近くのブックオフに足を踏み入れました。『四畳半神話大系』の単行本が叩き売られていたので、すぐさまレジへ持っていきました。

『夜は短し〜』の古本市での樋口さんの言葉を思い出します。

出版された本は人に買われる。やがて手放され、次なる人の手に渡る時に、本はふたたび生きることになる。本はそうやって幾度でも蘇り、人と人をつないでいく。

そうそう、忘れていました。北野天満宮に寄る前、白梅町にあるイズミヤというスーパーで赤玉ポートワイン、もとい、赤玉スイートワインを手に入れたのです。赤玉ポートワインは1973年に名を赤玉スイートワインへ改めたそうで、お値打ちなお酒です。ワンコインで買えてしまいます。

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三条のブックオフを出た私は交差点を渡り、土下座をする男を横目にしながら、京極商店街に迷い込んでしまいました。

そこは商店街というより、迷宮。どこかにミノタウロスがいるに違いありません。商店街では「三条と〜り」という怪しげなキャラクターが崇められており、ひよこと猫に目がない私はそのありがたさにひれ伏しました。

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商店街を抜けるとそこは四条通。京都の地へ降り立って以来、最も広い道で、にもかかわらず歩道は狭く、人々でごった返していました。電気ブランを!早く電気ブランを飲ませておくれ!と叫びながら四条通を抜け、烏丸通へと移動します。

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知らず知らずのうちに私は大垣書店に入り込んでいました。私はそこで黒猫の描かれたハンカチーフを買い、ふと見かけた美しい三つ編みの少女を追いかけるうちに、あるカッフェを見つけました。おやつ時からお酒を飲むのはよろしくないので、少し休憩していきます。

今日は晴天に恵まれておりましたが、空気は冷え込んでいましたので、店内は暖をもとめる人で混雑していました。もう少し、人がいなければ素晴らしい街なのに!

私が座ったのは喫煙席で、そこはまさに煙が立ち込める「副流煙ゾーン」でした。私はコートにタバコの臭いがついてしまわないか、と心配をしながらコーヒーを飲んでいました。どうしてあのような臭いとコーヒーの香りが口内で混ざり合うのを許せるのでしょうか。大人というのはよく分からない生き物です。

そうこうしているうちに日が暮れてまいりましたので、六角堂を訪れます。ここはへそ石様がおられるお寺です。

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矢三朗はこれを炙ったんですね。燻ったんでしたっけ。ともかく、この石は狸ですのでみなさんご注意を。

さて、とうとう電気ブランの時間がやってきました。電気ブランを格安で提供してくれる居酒屋へ入ります。年齢確認という壁を免許証で飛び越えた私は、運ばれてきたお酒に目を輝かせました。

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電気ブランは「無色透明で芳醇、何杯でも飲める美酒」とのことですが、電気ブランは「電気がビリビリ口の中に流れるオイチクナイお酒」でした。まだまだ舌が肥えていないのでしょう。

カウンターでひとり寂しく、贅沢に夕食を楽しんでいたところ、店員さんがふたつの賽を持って私のもとへやってきます。「賽を振り、ゾロ目が出たならば褒美をやろう」とのことでした。私は半笑いで賽を振りました。ゾロ目が出ました。店員さんは鐘を鳴らしました。厨房から、野太い歓声が聞こえてきました。私はオモチロイので大きな声で笑いました。

串かつ盛り合わせをサービスしてもらった私はお会計の額を見て少し食べ過ぎたなあと反省をしつつも、やっぴ〜と心の中で叫んだのであります。それは京都という素晴らしい街にささげるやっぴ〜でした。

小学生以来となる京都はまさに夢の都でした。京都弁が心地よく、見るものすべてが新鮮で、キラキラと光っていました。これが京都、世界が認めるKYOTOなのですね。

ねえ君、ただの紙の束にインクの染みがついているだけのものを、わざわざ高い金を出して買ってくれる人がいるんだよ。まことに本というのはありがたいものだなあ

そのありがたい本に出会ったことで、こうして京都で楽しいひと時を過ごすことができたのです。

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こうして出逢ったのも、何かの御縁。