儚さは白

白は始まりの色。

潮の匂いは鼻につく

今週末は数カ月ぶりの完全フリー。授業もなければバイトもないという、まさに休日と呼べる日がやってきた。折角の休み時に休んでいるのはもったない。インドア志向のアウトドア人間は取り敢えず身支度をして出掛けることにした。

家の前に出ると、たまたま駅に向かうバスが停留していた。怖いくらいにツイている。バスの車内で、ラジオ局のパーソナリティが大絶賛していた映画を思い出した。「きっと、うまくいく(原題:3 idiots)」というインド映画で、インドの歴代興行収入記録を更新した作品らしい。たまには人に流されるのも悪くはないと思い、すぐさま座席の予約をネットで済ませた。

一人で出掛けることの最大の利点は、何か問題が起きても誰にも迷惑が掛からないということ。予定調和のごとく電車を乗り間違え、映画の時刻に間に合うことが絶望的になっても、それほど慌てずに済んだのは一人だったからだろう。都会というものは誠に恐ろしいシステムで構築されており、環状線で分岐があるだなんてあまりにも卑怯だ。とにかく、乗り換えミスはバスを逃すことへと繋がり、バスを逃すことは映画に間に合わなくないことを意味していた。負のスパイラルである。

間に合わないと知りつつも一応努力をしてみるのは諦めが悪いからなのか。休み休み走っていると、潮の匂いが鼻から口へと広がってきた。久々に嗅いだその匂いは湿っぽく、まるで梅雨の到来を告げているかのようだった。嗅覚で季節を感じられるのはいい。夏や冬の匂いを味わえるのは大抵が朝で、それはいつもと変わらぬ一日を少しだけ誇らしげに過ごすことができるご褒美みたいなもの。そんなご褒美タイムが今日は昼時にやってきた。映画を見逃すことがどうでもよく思えるくらいに清々しい瞬間だった。

十分ほど遅れてシアター内へ入場したのにも関わらず、未だ予告編が流れていたときは唖然としてしまった。「きっと、うまくいく」。いつのまにかタイトルの通りに物事が進んでいたのかもしれない。

肝心の映画は非常に完成度の高い作品だった。位置づけとしてはコメディ映画なのだけれど、決してコメディで完結させないテーマの重さを感じた。人生とは何か、大学における競争に対する疑問、そして友情。ラジオのパーソナリティがこの映画をこう表現していたのを思い出す。「まさに泣いて笑える映画だ」と。映画というのは大勢で感情を共有できるところに魅力があるのだと思う。皆が笑い、皆が泣いていた。そんな素敵な空間にいられたことが、また幸せだった。(次記事へ続く)