儚さは白

白は始まりの色。

「永遠の0/百田尚樹」 感想

永遠の0 (講談社文庫)永遠の0 (講談社文庫)
(2009/07/15)
百田 尚樹

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全国のミーハー諸賢はきっとこの本に喰い付いたに違いない。帯に書かれた200万部突破の文字ほど、ミーハー心を揺さぶるものはない。にわかミーハーである自分も、偶然立ち寄ったぶこふ(ブックオフの愛称)でこの本が叩き売りされていたときは飛びつかざるを得なかった。にわかミーハーほど面倒な生き物もなかなかいない。

男の子というものは必ず戦争に憧れる時期があって、太平洋戦争の図解を読んでは、この戦略が愚だった!なんて主張するものだ。兵器への憧れは強く、少年期に感じた格好いいものランキングで上位に位置することだろう。その中でも特に零戦は特別だ。今夏に公開されるスタジオジブリ製作の「風立ちぬ」で扱われる、堀越二郎という人物は零戦の設計者であり、晩夏にはにわか零戦ファンが増えていることだろう。今年はミーハー旋風が吹き荒れるに違いない。零戦、格好いいゾ!

そんな太平洋戦争における日本の戦史を、零戦を軸にして振り返るのが本作の主な概略である。いや待て、重要なのはストーリーだ!という人もいるかもしれないが、主観というものは人それぞれなのだ。本など好きに読めばいい。

軍部視点ではなく、兵士の目線で語られる戦争はまた特別なものがあり、直掩や特攻に対する生身の発言は生々しい。これは現代社会にも通じるメタファーであると考えるとゾッとしてしまった。また、忘れてはいけないのはジャーナリズム、特に新聞報道に対する提言である。本作で噛ませ犬として登場した、「特攻はテロ行為であった」というあのジャーナリスト。あの悪童のおかげで、よりメッセージ性のある作品になったのではないだろうか。

フィクションの利点は話を上手くいかせることができるという点だと思う。一読者としては、話が上手く転がれば転がるほどどこか置いて行かれる感覚に陥ってしまう。最終章、こんな繋がり方でよかったのだろうか。話的には纏まっているが、どこか興ざめしてしまった。泣き所で泣けないのをどうにかしないと人間的に徐々に腐っていく気もするが…

とはいえ、大戦から時間が経過し、当時を語る人が少なくなる現在に読むべき本ではないかと感じた。プロペラ機っていうのがいいよね。いつか零戦の展示を見に行こう。