儚さは白

白は始まりの色。

「〈古典部〉シリーズ/米澤穂信」 感想

氷菓 (角川文庫)氷菓 (角川文庫)
(2001/10/31)
米澤 穂信

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現在刊行されている〈古典部〉シリーズ五冊を読了した。このうち四冊は京都アニメーションによってアニメ化されており、同アニメを視聴していたためか登場人物のイメージが随分と固まって見えたものだ。本作は意外なことに現在、角川書店から発刊されている(当初は角川メディアなんちゃらから出てた記憶)。ライトノベル原作のアニメ化が多い近年にしては珍しい例ではないだろうか。
先述の通り、本作のキャラクターイメージは頭のなかでほぼ完成していたので、どちらかと言えばキャラクターで魅せる作品だという印象を強く受けた。

このシリーズは位置づけとしてはミステリーの中でも学園ミステリーという棲み分けになるのかもしれない。扱う事件は日常的範疇に収まっており、人が殺される心配もない。それでもってとにかく、とにかくビター。こういうテイストの作家さんなんだなって感じた。皆さん揃って万歳三唱、これにて一件落着、ハッピーエンドということは少ない。どこか胸にある種の苦しさをに残して幕を閉じてしまうことに、次第に名残のような気持ちを覚えていった。

学園ものを取り扱う作品の醍醐味は登場人物の成長を感じられることではないだろうか。本シリーズでも第五作、「ふたりの距離の概算」で主人公の折木の意外な心理変化が表れる。この折木奉太郎、青春を否定するかのような省エネ主義者で、ウェイ学生とは全くウマが合わないであろう男なのだが、そんな折木がウェイ学生への階段を、もとい自らの理念に疑いを持つ場面はシリーズ五作目にして大きな分岐点となる。負けるな折木、ウェイへの道を絶て!

実はこのシリーズ、時に様々なミステリー作品をオマージュしていることが作者あとがきにて述べられている。こうした入り口から名作ミステリの扉を叩くことが将来あるかもしれない。やはり本との出会いは一期一会なんだなと思う馬鹿みたいに暑い初夏のお話。